
✅ 季節と妊娠率 – 先行研究の概要
- 人間では、自然妊娠や出生数に「季節性 (seasonality)」が認められるという報告が複数ある。
- 例えば、北米とデンマークを対象とした大規模コホートでは、秋 (fall/9〜11月) に妊孕性 (fecundability = 妊娠しやすさ) が最も高く、春 (spring) に最も低い傾向が見られた。
- ただし、この季節差の強さは地域(緯度など)によって異なり、すべての場所で一律というわけではない。
🏥 ART(体外受精など)の成績にも「季節の影」が?
- 最近の研究では、排卵誘発〜採卵サイクルにおいて、気温や季節が臨床妊娠率に影響する可能性が示されている。例えば、ある研究では春・夏で冬と比べ臨床妊娠の確率がそれぞれ約 1.74倍・1.53倍。
- また、採卵時に気温が高い方が臨床妊娠率が高い傾向にあったという報告もある。
- 一方で、別の大規模研究では、胚移植 (fresh または凍結胚移植) の臨床妊娠率・着床率に 季節 (月・季節) の有意差はなかった と結論されている。
つまり、「季節が影響する」という研究もあれば、「関係ない」とする研究もあり、結論は一様ではない。
🧪 なぜ季節で差が出るのか — 考えられるメカニズム
主に以下のような要因が考えられている。
- 気温や日照時間 (photoperiod) の変化による、ホルモン分泌、卵巣/精巣の機能、受精・着床環境への影響。
- 性行動(性交の頻度やタイミング)の季節差 — 暖かい季節や休日の多い時期での性行為の増加。
- 環境ストレス (高温や寒暖差)、体調・生活習慣 (冷え、食事、睡眠、ストレス) の季節変動による影響。特に夏の高温は、精子の質や胚の発育にマイナスになる可能性。
⚠️ ただし「季節で妊娠しやすさが確定する」とは言えない理由
- 研究によって結果がまちまちであり、施設・地域・治療内容 (自然妊娠 vs ART) によって差がある。
- 季節以外の要因 (年齢、通院回数、治療プロトコル、生活習慣など) が大きく影響するため、季節だけを切り離して「〇月がベスト」と断言できない。
- また、多くの ART クリニックではホルモンや内膜調整を薬でコントロールするため、人工的な調整が季節の影響を相殺する可能性がある。
💡 結論 — 「季節はひとつの要因。ただし万能ではない」
現時点のエビデンスでは、秋〜冬前あたり (特に自然妊娠では秋) に妊娠しやすい可能性がある、という報告が多め。一方で、ART においては「季節の影響なし」が多く報告されており、季節はあくまで“複数の要因のひとつ” と捉えるのが妥当。
だからこそ、「季節を意識しつつも、生活習慣 (体温管理、睡眠、栄養、ストレス管理など) による妊孕性の最適化」が現実的で合理的。