
不妊治療を受けている患者さんから、ときどきこのようなお話を聞くことがあります。
「病院では私の検査や治療の話ばかりで、夫の精子についてはほとんど何も言われません」
「採卵や移植を繰り返しているけれど、男性側は最初の精液検査をしただけです」
「なかなか妊娠しないと、自分の卵子や子宮に原因があるような気持ちになってしまいます」
実際、不妊治療では女性が通院し、採血、超音波検査、排卵誘発、採卵、胚移植など多くの治療を受けるため、どうしても「不妊=女性側を調べる・治療する」という構図になりやすいところがあります。
しかし医学的には、不妊は決して女性だけの問題ではありません。
男性側の要因が関係する不妊は珍しくありません
WHO(世界保健機関)は、不妊症を「男性または女性の生殖器系の疾患」と定義しており、不妊の原因には男性因子、女性因子、両方の因子、原因不明があるとしています。
男性側では、
・精子数が少ない
・精子の運動性が低い
・精子の形態に異常が多い
・精子が作られにくい
・精子の通り道に問題がある
・射精に問題がある
・ホルモン異常がある
など、さまざまな原因が考えられます。
米国国立衛生研究所(NIH)傘下のNICHDでは、不妊の原因について、
約1/3が男性側
約1/3が女性側
約1/3が男女双方または原因不明
と説明しています。
また、米国泌尿器科学会(AUA)と米国生殖医学会(ASRM)の男性不妊ガイドラインでは、妊娠に至らない不妊カップルの約半数で男性側の要因が全部または一部関係しているとされています。
つまり、不妊治療を考えるうえで男性側の評価は決して「念のため」ではありません。
女性側と同じように、最初から考えるべき重要な要素なのです。
本来は「男女を同時に調べる」ことが推奨されています
ここは非常に重要です。
AUA/ASRMのガイドラインでは、不妊症の初期評価について、
男性と女性の両方を並行して評価する
ことが推奨されています。
ASRMの女性不妊評価に関する指針でも、男性パートナーがいる場合には、女性の検査と同時に男性側の生殖・病歴を確認し、少なくとも1回の精液検査を行うとしています。
つまり世界的な不妊診療の考え方は、
「まず女性を徹底的に調べて、問題がなければ男性を調べる」
というものではありません。
「妊娠は二人に関係することなので、最初から双方を評価する」
という考え方です。
なぜ不妊治療は女性中心になりやすいのでしょうか?
これは「病院が男性を無視している」と単純に考えるべき問題ではありません。
現在の生殖医療の多くは産婦人科・婦人科を中心として発展してきました。
さらに、体外受精では、
・卵巣刺激
・卵胞チェック
・ホルモン検査
・採卵
・子宮内膜の評価
・胚移植
など、治療工程の多くが女性の身体に対して行われます。
そのため必然的に、通院するのも女性、検査を受けるのも女性、薬を使うのも女性という状況になりやすくなります。
その結果、患者さん自身も、
「妊娠できないのは私の身体に何か問題があるからではないか」
と感じてしまうことがあります。
しかし、不妊治療を「女性だけの治療」として考えるのは適切ではありません。
「精液検査が正常だったから男性は問題なし」とは限りません
ここも知っていただきたいポイントです。
精液検査では主に、
・精液量
・精子濃度
・総精子数
・運動率
・精子形態
などを調べます。
非常に重要な検査ですが、精液検査だけで男性の妊孕性を完全に判定できるわけではありません。
AUA/ASRMガイドラインでも、無精子症など一部の明確な異常を除き、精子濃度・運動率・形態など個々の数値だけから「妊娠できる・できない」を正確に判断することはできないとされています。
また精液所見には変動があります。
そのため、特に最初の検査に異常が認められた場合には、複数回の精液検査が重要になる場合があります。
「一度精液検査をして基準値だった」
ということと、
「男性側には妊娠に関係する問題が一切ない」
ということは、必ずしも同じ意味ではありません。
採卵・移植を繰り返している場合こそ「二人の問題」として考える
体外受精では、どうしても卵子の数や質、胚のグレード、子宮内膜、着床など女性側に注目が集まります。
もちろん、女性の年齢は妊娠率に大きく影響する重要な因子です。
一方で、胚は、
卵子だけからできるものではありません。
卵子と精子、それぞれの遺伝情報によって形成されます。
そのため、
「良い卵子を作るために女性だけが努力する」
という考え方ではなく、
妊娠を目指す二人がそれぞれの身体や生活習慣を整えていく
という視点も大切だと当院では考えています。
男性側についても、喫煙、過度の飲酒、肥満などの生活習慣が妊孕性に関連することをWHOは指摘しています。
女性だけが責任を感じる必要はありません
長く不妊治療を続けている女性の中には、
「私の卵子が悪いから」
「私がもっと若ければ」
「私の身体が妊娠できないから」
と、ご自身を責めてしまう方がいます。
しかし、不妊は一人の責任を探すためのものではありません。
男性因子が関係するケースもあり、男女双方の因子が重なっている場合もあり、詳しく調べても原因を特定できない場合もあります。
大切なのは、
「どちらに責任があるのか」ではなく、「二人にとって妊娠の可能性を下げている要因はないか」
という視点で考えることです。
当院ではご夫婦双方の身体を考えて妊活をサポートしています
上尾ゆうしん鍼灸院では、不妊治療中の女性だけを見るのではなく、妊娠を目指すご夫婦双方の身体や生活背景を大切にしています。
病院で行われる卵胞チェック、ホルモン検査、精液検査、採卵、胚移植などの医療を基本としながら、
睡眠、冷え、胃腸の状態、月経、生活習慣、ストレス、そして男性側の健康状態なども含めて身体をみていきます。
特に、
「何度採卵しても結果が安定しない」
「移植を繰り返している」
「精液検査について詳しい説明を受けていない」
「夫はほとんど何もしていないので、このままでいいのか気になる」
という方は、一度ご夫婦で妊活について考えてみることも大切だと思います。
不妊治療は女性一人が背負うものではありません。
一日でも早い妊娠と施術卒業を目指して、病院での生殖医療と連携しながら妊活をサポートしていきます。
参考文献・参考情報
・World Health Organization(WHO), Infertility, Fact sheet
・American Urological Association / American Society for Reproductive Medicine, Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline
・American Society for Reproductive Medicine, Fertility evaluation of infertile women: a committee opinion
・Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development(NICHD), Male Infertility